この記事でわかること
- 製造業で、新規の営業リストより「一度話した先」から当てた方がよい理由
- 失注の理由を3つに分けてかけ直す時期を決め、前回と違う切り口で入り直すやり方
- 担当が変わった既存客への入り方と、1つの工場から別の工場・別の部署へ広げる聞き方
このコラムは、次のような方に向けて書いています。
「一度断られた会社は、営業リストから消してしまっています。もう一度かけてよいのか分かりません」
「長く付き合っている取引先でも、話せるのは昔からの1つの部署だけです」
「工場ではアポが取れるのに、同じ会社のほかの工場や本社には、いつまでも広がりません」
製造業の新規開拓では、新しい会社を探して電話をかけることに目が向きがちです。けれども、製造業で一番話を聞いてもらいやすいのは、一度でも話したことのある相手です。断られた会社、資料を送ったままの会社、検討して見送った会社、そして今の取引先の、まだ話していない工場や部署。
この記事は、メーカー・工場に物やサービスを売る会社の営業担当・責任者に向けて、こうした「眠っている接点」の起こし方をまとめます。製造業の電話の基本(営業リストの作り方・当てる相手・最初の一言)は「製造業向けのテレアポ攻略法」にまとめているので、ここではその先の、一度止まった相手と、すでに付き合いのある相手をどう広げるかに絞ります。
前提:新しい会社より、一度話した会社から当てる
製造業は、取引先との関係が長く固い業界です。知らない会社からの電話は、受付で止まるか、「うちには関係ない」で切られやすい。その中で、一度でも話したことのある相手は、扱いがまったく違います。
名前で呼び出せるので受付で止まりにくく、相手もどこかで聞いた名前として電話に出てくれます。実際に、資料を送った先にかけ直したときのアポの取れ方は、まったくの新規にかけたときの数倍になることが珍しくありません。今の取引先なら、担当の方につながれば、多くがそのまま訪問の約束になります。
どれも、新規の電話には無い「名前」と「前の話」があります。それを最初の一言に入れるだけで、電話の立ち位置が変わります。展示会の名刺の追い方は「展示会の費用対効果を最大化する架電設計」で詳しく書いているので、ここでは主に、断られた先と今の取引先の起こし方を取り上げます。
POINT
新規の営業リストを増やす前に、社内に眠っている「一度話した先」を全部洗い出す。製造業では、それが一番見込みの高い営業リストです。
失注の理由を3つに分けて、かけ直す時期を決める
掘り起こしで最初につまずくのは、失注の理由が「断り」「見送り」の一言しか残っていないことです。これでは、いつ、誰に、何の話でかけ直せばよいかが分かりません。
失注の理由は、かけ直せるかどうかで3つに分けて残します。
物理的に合わない
扱う物・設備・工程が、そもそも商材と合わない。「その工程は社内に無い」「その材料は使っていない」
営業リストから外す
相手の都合
予算が無い、担当が違う、社内の決まりで外の仕組みを使えない、今の取引先で足りている
理由ごとに切り口を変えて当て直す
時期
「今は検討できない」「来年度なら」「設備の入れ替えはまだ先」
次に連絡する時期を決めて残す
多くの失注は、「物理的に合わない」以外の2つです。製造業の「予算が無い」は、ほとんどの場合「今は無い」という意味です。同じ会社でも、受注が伸びたとき、新しいラインを立ち上げるとき、法律が変わったときに、予算は出てきます。
会社全体で見ても、予算の向きは年ごとに大きく変わります。中小の製造業では、2025年度の国内の設備投資は前の年度より減り、17業種のうち13業種で減りました。一方、2026年度の当初の計画では、10業種で前の年度より増やす見込みです。去年「予算が無い」と言った会社が、今年も同じとは限りません。
出どころ:日本政策金融公庫総合研究所「第134回中小製造業設備投資動向調査」(2026年6月25日公表、従業員20人以上300人未満の中小製造業。2025年度実績は前年度比3.5%減、2026年度当初計画は前年度実績比1.7%増)
かけ直す間は、3か月ほどを目安にします。3か月たつと、担当や状況が変わっていることが多く、前の断りがそのまま当てはまらなくなります。「来年度なら」と言われた先は、来年度の予算を組む前、大手なら秋ごろにかけ直す日を入れておきます。
かけ直すときは、前回と違う切り口で入る
時期を空けても、前回と同じ案内をすれば、同じ理由で断られます。かけ直すときは、前回とどこを変えたかを先に決めます。
変えられるのは、誰が・どこで・何に困っているか、の組み合わせです。前回は「事務の手間」の話で断られた相手に、今回は「監査で指摘されやすい所」の話で入る。前回は製造部に当てて断られた会社に、今回は生産管理部に当てる。切り口が変われば、相手にとっては別の話です。
NG 前回と同じ入り方
「以前ご案内した〇〇の件で、改めてご検討いただけないかと思いまして」。前回の断りの理由がそのまま残っていて、同じ言葉で断られる
OK 状況の変化から入る
「以前は〇〇の件でお話ししましたが、その後、△△の決まりが変わりまして」。法律の改正、監査、新しいライン、取引先の変化など、相手の工場に関わる変化を一言で置く
NG 断られた理由を否定する
「前回は今の取引先で足りているとのことでしたが、うちの方が良いので」。相手が選んだ取引先を下げると、相手の判断を否定したことになる
OK 前の検討を前提にする
「以前ご検討いただいて難しかった点があると伺っています。今回はその点を補える形がありまして」。前の検討が無駄でなかったことを認めてから入る
「今の取引先で足りている」という断りも、時間がたつと変わることがあります。製造業の現場では、長く付き合ってきた協力会社が廃業し、「簡単で量の多い仕事は海外へ、難しくて量の少ない仕事が国内に残る」中で、少量でも受けてくれる先を探し始めた、という声が聞かれます。海外の工場から国内の工場へ仕事を戻す動きから、国内の取引先を探している会社もあります。
国内では、2025年に休業・廃業・解散した会社が6万7,210件と、3年続けて過去最多になりました。代表者が60代以上の会社が9割を占めます。取引先の顔ぶれは、外から見えないところで少しずつ変わっています。
出どころ:東京商工リサーチ「2025年『休廃業・解散企業』動向調査」(2026年1月9日公表。全産業の件数。代表者が60代以上の割合は90.6%)
担当が変わっていても、前の接点を入口にする
掘り起こしの電話で一番多いのが、「その者はもう担当ではありません」「異動しました」という返事です。ここで電話を終えると、せっかくの接点が消えます。
担当が変わっていても、前に接点があったこと自体が入口になります。「以前、御社とお話ししておりまして」と伝えて、次はどなたに連絡すればよいかを聞けば、多くの場合、後任の方の名前を教えてもらえます。受付から見ても、まったく知らない会社の電話より取り次ぎやすいからです。
担当が変わっていたときの言い方の例
「さようでしたか。以前、〇〇の件で△△様にお時間をいただいておりまして、その後のご状況を改めて伺えればと思っておりました。今、この件はどちらの部署の、どなた様にご連絡するのがよろしいでしょうか」
担当が変わったばかりの方は、前任から引き継いだ仕事を見直している時期でもあります。前の担当者とは進まなかった話が、新しい担当者とは進むこともあります。役職に就いたばかり、異動したばかりという最新の情報も、時間を置いてかけ直したときに拾えるものです。
今の取引先なら、なおさらです。前の担当者の名前を出して、「後任の方にもごあいさつに伺いたい」とお願いすれば、商品の説明をしなくても訪問の約束になります。訪問の日程は、こちらから日時を出します。曜日ごとに回る地域を決め、すでに決まっている訪問先の近くの会社も候補に並べておくと、1日に回れる数が増えます。大きな工場では入るための申請が要ることも多いので、日程が決まったら必ず確かめます。
1つの工場から、別の工場・別の部署へ広げる
今の取引先や、一度アポが取れた会社で、話せるのが1つの工場・1つの部署だけ、という状態はよくあります。製造業の大手は、工場や事業部がそれぞれ独立して動いていることが多く、1つの工場で取引があっても、隣の工場は何も知らない、ということが普通です。
だからこそ、1つの工場で取れたら、同じ会社の次の工場、次の部署へと当てていきます。
入口取引のある工場・部署すでにアポや取引がある相手。ここで現場の困りごとと、効果の出方をつかむ
聞くほかの工場と部署「同じような仕事をしている工場や部署は、ほかにありますか」「この件はどなたが見ていますか」
社内の関係を一言添えて当てる
横へ同じ会社の別の工場「〇〇工場の△△様とお話ししておりまして」と添えて、同じ困りごとの工場に当てる
隣へ同じ工場の別の部署「製造部の方から、この件は製造管理課のご担当と伺いまして」と添えて当てる
本社・全社へ
聞き方にも工夫が要ります。名刺の部署名には必ず触れます。「〇〇1グループ」とあれば「2や3もあるのですか」と聞くと、同じ部の中のほかの組織が見えてきます。聞くときは「その部で何をしているか」「ほかにどんな課があるか」「その下のグループ」と、大きい所から小さい所の順に聞くと、尋問のようになりません。
ほかの部署や工場を紹介してほしいときは、商談の最後ではなく、早めに聞く方が自然です。最後に聞くと「自分ではなくほかの人に売りたいのか」と受け取られかねません。「正しくご案内したいので、まず御社の組織を教えていただけますか」と、先に理由を置いてから聞きます。
気を付けたいのは、本社への橋渡しを現場に任せきりにしないことです。工場で取れたアポから、本社の担当を紹介してもらえるのは、ごくわずかです。多くの場合、工場の担当者も本社の誰が決めているかを知りません。工場で聞いた話を持って、営業自身が本社に当たります。また、相手が言っていないことを「〇〇様からご紹介いただいて」と言うのは絶対にやめます。名前を出すのは、実際に話した事実だけです。部署ごとの当て方は「工場の部署別の当て方」で詳しく取り上げています。
掘り起こしの営業リストは「接点の記録」で作る
掘り起こしができるかどうかは、前の電話のときに何を残したかで決まります。「断り」の一言しか残っていなければ、起こしようがありません。製造業のように、狙う会社の数が限られる業界ほど、1回の電話で拾った情報を残し、同じ営業リストを使い続けられる形にしておくことが大切です。
掘り起こせる営業リストの決めごと
会社・部門・人の3段で残す
会社の下に「何をしている部門か」、その下に「誰が何の担当か」を残す。次に誰が電話しても、同じ地図から始められる。
断りの言葉と時期をそのまま残す
「断り」の一言ではなく、言われたままの言葉と、次にかけてよい時期を残す。3つの区分のどれかも付けておく。
取り次ぎ先と糸口を残す
「別の工場に回された」「戻りは夕方」「担当は製造管理課」など、転送先・拠点・戻り時間も残す。不在は情報を取る機会になる。
自社のほかの動きと突き合わせる
展示会の名刺、営業担当の商談、ほかの協力会社のリストと重ならないよう、かける前に突き合わせる。同じ会社・同じ拠点に何度も重ねて当てない。
番号の扱いも見直します。展示会の名刺や過去の記録に、携帯番号しか残っていないことがよくあります。携帯は日中つながりにくく、知らない番号には出てもらえません。拠点の番号や部署の直通番号を調べ直して入れておくと、つながる割合が大きく変わります。
技術の話が多い商材で、前回の電話で答えられない質問が出て止まった先は、持ち帰った答えを用意してからかけ直すと、それ自体が次の電話の理由になります。技術の質問への向き合い方は「技術の分かる営業がいないときの製造業への売り方」で取り上げています。
うまくいった例・いかなかった例
製造業で、眠っている接点を起こした場面で、何をして何が分かったかを紹介します。会社名は伏せ、商材の種類だけを書いています。
うまくいった例
狙える会社が限られる装置メーカーで、同じ会社の中の接点を増やした
状況
半導体の製造装置メーカーに向けて、受託の製造を案内した。狙える会社の数が少なく、別の工場への取り次ぎや担当者の不在も多い業界だった
やったこと
電話のたびに、転送先・拠点・次に話せそうな糸口を記録に残し、同じ会社の中で話せる相手を増やしていった。初回の電話から、今の外注の方針や、協力会社を選ぶ基準など、次につなぐための質問を入れた
分かったこと
限られた営業リストでも、打ち尽くさずに続けられた。母数の少ない業界ほど、1回の電話で拾った情報が次の接点になる
うまくいった例
部品メーカーの既存の取引先に、訪問のごあいさつをお願いした
状況
工場やプラントを持つ既存の取引先に、定期的に訪問したいが、営業担当の手が回っていなかった
やったこと
取引の履歴と最後に会った時期で優先度を付け、前の担当者の名前を出してごあいさつと定期訪問をお願いした。商品の説明はほとんどせず、日時はこちらから出した。担当が変わっていた先には、後任の方へのごあいさつをお願いした
分かったこと
担当の方につながれば、多くがそのまま訪問の約束になった。異動した方の後任と初めて会う訪問も生まれた。今の取引先の「後任」は、それだけで新しい入口になる
いかなかった例
携帯番号しか無い名刺は、そのままではかけられなかった
状況
展示会で集めた名刺をまとめて掘り起こそうとしたら、携帯番号しか残っていない先が多かった
つまずき
携帯は日中つながりにくく、知らない番号からの電話には出てもらいにくい。そのままの営業リストでは動かせなかった
直したこと
名刺の会社の拠点の番号や部署の直通番号を調べ直して入れてから、かけ始めるようにした
3つの例から言えること
どれも、電話の上手さより先に、前の接点で何を残し、次にどの番号・どの名前で入るかが結果を分けています。
まとめ:製造業の掘り起こしは「断りの記録」から始まります
製造業の掘り起こしと広げ方で押さえること
- 新しい会社より先に、断られた先・資料を送った先・今の取引先など、一度話した先を洗い出す
- 失注の理由を「物理的に合わない」「相手の都合」「時期」に分け、かけ直す時期を決める
- かけ直すときは、法律の改正や新しいラインなど、前回と違う切り口で入る
- 担当が変わっていても、前の接点を伝えて後任の方の名前を聞く
- 1つの工場で取れたら、ほかの工場と部署を聞き、社内の関係を一言添えて当てる
- 会社・部門・人、断りの言葉と時期、取り次ぎ先を残し、何度でも使える営業リストにする
製造業は、一度の電話で決まる業界ではありません。だからこそ、断られた電話にも、次の電話の材料が残ります。断りを記録に変え、時期と切り口を変えて当て直す。その積み重ねが、関係の固い業界で取引を広げていく近道です。
よくある質問
一度断られた製造業の会社に、もう一度電話してもよいですか?
かけ直して構いません。製造業の「予算が無い」「今は検討できない」は、多くが「今は」という意味です。目安は3か月ほど空けること、そして前回と違う切り口で入ることです。法律の改正や新しいラインの立ち上げなど、相手の工場に関わる変化を一言置くと、同じ理由で断られにくくなります。
掘り起こしの電話で、前の担当者がいなかったときはどうすればよいですか?
電話を終えずに、「以前、〇〇の件で△△様にお時間をいただいておりまして」と前の接点を伝え、今はどちらの部署のどなたに連絡すればよいかを聞きます。前に接点があったことで受付も取り次ぎやすく、後任の方の名前を教えてもらえることが多くあります。
既存の取引先の、ほかの工場や部署に広げるにはどうすればよいですか?
取引のある工場で、同じような仕事をしている工場や部署がほかにあるかを、商談の早いうちに聞きます。聞けたら「〇〇工場の△△様とお話ししておりまして」と社内の関係を一言添えて当てます。本社への橋渡しは現場に任せきりにせず、工場で聞いた話を持って営業自身が当たります。
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